第26回フレッシュマン産業論文コンクール
日刊工業新聞社 主催


優良賞


― 掃除から生まれる生命力溢れる商品 ―

 日本の文化は「掃除」と深い関わりを持っています。年の暮れには大掃除という一つのイベントがあり、家族全員で家の隅々まで掃除をします。学校では授業の後に生徒全員で掃除をしてから帰ります。そしてお寺です。お寺ほど掃除が似合う場所はありません。お坊さんが境内を竹箒ではいている様子、小僧さんが渡り廊下の雑巾がけに励んでいる姿は日本の一つの風物にさえなっています。

 弊社では社員に自主的な朝の掃除を推奨しています。入社した当初は「上司がしているのに私だけやらない訳にはいかない」という態度でしたが、徐々に考え方が変わってきました。まず、眠気に負けずに早く出社しているので、心して明るく積極的に掃除をするように努めました。すると、「次は研究室のあの棚が汚いから今週はそこを重点的に掃除しよう」とか「床の落ちにくい汚れをどう落とそうか」と考えるようになりました。また、いくら掃除をしても綺麗にならない所もあります。そんな時に新たな方法を試してみようと思えるようになったのも、掃除を継続したお陰です。頭を使う事ばかりを重視するのではなく、実際に自分の体を使い行動する事によって初めて新たな気付きが生まれます。

 しかし、この「掃除」という日本の文化は今、大きく変わりつつあります。美しいもの、綺麗なものに対する考え方が根本的に変わってきている為です。自然な美しさ、よく手入れが行き届いた旅館のような美しさより、無機的で人工的な美しさ、心地よいもののみを集め不快なものを遠ざけるシティホテルのような美しさを多くの人々は求めるようになりました。殺虫剤・殺菌剤などを使い、どんな小さな虫一匹、いや菌一つでさえ許さないほど過度に清潔さを追求し「掃除をして愛情を持って美しさを保つ」時代から「人間以外の生物を絶滅させることで、思い通りの空間を創造する」時代に変わってきています。

 私は現在、ものつくり部に所属し研究開発の仕事をしています。弊社では天然成分100%で嘘のないものつくりにこだわった商品を開発しています。化学系出身の私にとって、商品を開発する際に、このことが様々な制約を生み出します。化学合成品を使えば簡単に解決しそうな問題も、それを使えば弊社では嘘のあるものつくりになってしまう為に使えません。天然成分でもイメージがいいから使うということは許されず、本当に安全性が保証され、合成物を凌ぐ長所を発見できなければ使用できません。大脳が生み出した一つ一つの合成物質を、機能性の面から組み合わせて高い性能を実現していくという、今流の考え方に慣れてしまっていた私にとって、そのシンプルだが多機能な自然の持つ力を上手に引き出すという、思い通りにならない取り組みに最初は戸惑いを感じました。しかし徐々に植物や昆虫の持つ力の素晴らしさに気付き、合成化学で自分の思い通りの物を創造する開発から、何億年単位の長い歴史の中で培われた全ての生物がお互いに支えあい調和する、自然を生かした組み合わせを重視する開発、たくさんの生産物を生み出しながらゴミの出ない森のように、商品の原料そのものが自然を豊かにする開発をしていこうと思えるようになりました。

 この変化をもたらしてくれたのは掃除だと思っています。ちょうど私達日本の文化の一翼を担ってきた「掃除」に取り組むことで、生命ある美しさを追求することの大切さを理解できたからです。私達が早朝の掃除に取り組むように、多様な生物が私達が寝ている間にもゴミを運び、食べ、分解しています。一匹一匹の虫はちょうど四つん這いになって床掃除をしたり、トイレ掃除をしている私達のようにあまり綺麗なものには見えないかもしれません。しかし、人間も生物の一つであることを自覚すれば、「掃除」が自然や社会を生命感のある美しさで調和させるのです。

 私は今、中小企業の、とりわけ弊社に入社出来たことを嬉しく思っています。各々の個性を生かしながら同じ気持ちで自然と目標に向かい努力していける一致団結した雰囲気、やりすぎではないかと思うほどの自然への徹底したこだわりが好きです。そして何よりも毎日の掃除を通じて、自然に生き自然を生かすことの大切さを見つけることができました。これからも私のように「掃除」の意味に気付き、自主的に全社員で取り組む中小企業が増えていくことで、いつのまにか生命力溢れる商品を世界中に広める大きなうねりが生み出せると思います。

 掃除を通して生きる意味を考え続けられている鍵山秀三郎さんは、著書の中で掃除から得られる五つの変化を挙げています。一、自分の心を磨く。二、気付く人になる。三、謙虚になる。四、感動する心になる。五、感謝の心がわく。毎日の掃除から深く学び、生命への畏敬、感謝を忘れずに、嘘のないものつくりに邁進して参ります。

内藤 直記